映画「 ルアーブルの靴磨き」のフランス気質

 お話は、フランスノルマンディの港町。主人公靴磨きのマルセルがアフリカからの密航難民の少年を匿い、周囲の市民も協力して、少年を母親のいるイギリスに送り出すまでの、数々のエピソード。ふとしたきっかけで、マルセルは少年を官憲の追及から救い、家に匿う。捜査のモネ警視は、少年の差出を勧めるが強制はしない。近隣の親しい住人も、少年の秘匿に協力し、マルセルは難民キャンプに少年の祖父を訪ねて母親の所在を聞きだし、密航の資金稼ぎに、チャリティショウまで催してしまう。首尾よく少年を密航船に乗せるが、そこへ件の警視が乗り込んできて、万事休す、と思いきや、逮捕にきた警官を追い返す。ここで、往年の名作「カサブランカ」のクロード・レインズ演ずるルノー署長を思い出した。この間、主人公マルセルの妻アルレッテは不治の病と宣告され、入院中、少年を無事送り出したマルセルは医者から呼び出しを受け、病院に駆けつける。観客は、てっきり最後宣告を言い渡されるのだろうと予想するが、意外や意外、奇跡が起こり、アルレッテは全快して、目出度し目出度しとなる。
 1957年フィンランド生まれのアキ・カウリスマキの脚本・監督・製作。作品の雰囲気は、往年の松竹大船の下町人情劇を思わせるが、ヨーロッパ先進国が抱える難民受け入れの難問なども取上げ、不法を承知で密航少年を逃す庶民のごく自然な行動を描く。官憲の警視までが片棒を担ぐ有様。権威に抵抗する庶民の行動が共感を呼ぶ。幕切れのアルレッテの全快もアレッと思わせる結末で、観客をはぐらかす。
 エスプリの利いた「ほのぼの寓話」の佳作だった。