愚直とは

 11月10日、俳優 高倉健が、83歳で亡くなった。私より1歳下の彼が過ごした時代は、我が身を振り返って、どの時代も、鮮明に思い浮かぶ。彼は、1960年代の東映やくざ路線のスターとしてドル箱俳優だったが、1976年フリーとなるや、1977年「八甲田山」「幸福の黄色いハンケチ」、で、新境地を開き、幅広い年代層にフアンを獲得していった。不器用、寡黙、といったキャラクターに滲む温もりは、一層の魅力となったが、それは、彼の人生感そのものの発露であったろう。映画を愛し、ともに仕事に携わった仲間と、有名、無名を問わず、大切に接したらしい。一方、私生活は一切明らかにしない生き方は、死ぬまで変わらなかった。幸せが続かなかった結婚生活をどう受け取っていたのだろう、そっと胸にかかえて恐らく生涯忘れる事が無かったのだろう。映画で共演した仲間との付き合いは広く数多いが、気遣いの行き届いたものだった。私生活の隙間を、仕事仲間との付き合いで埋めていたのかも知れない。
 やくざ路線の経験は、その後、血となり肉となって生かされていく。その積み重ねが一つ一つ作品に堆積して、遺作「あなたに」に集大成された。生前、次作「風に吹かれて」を準備していた由だから、実現したら、彼はどんな世界を見せてくれたのだろう。

 時を同じくして、安倍内閣は国会解散を宣言し、総選挙を打ち出した。安倍内閣の発足は、2012年11月14日の国会与野党党首討論で、当時の民主党野田総理が、国会改革を条件に解散を提案したのが発端だ。安倍氏はこの提案に明白に約束しておきながら、2年経ったても、いまだに手を付けていない。野田氏はカンカンで、選挙の争点にもなるだろう。野田佳彦氏は松下政経塾の第1期生だから、政治家の基本理念を松下幸之助氏から叩き込まれていたのだろう。船橋駅前の朝だち演説を24年間も続けた話は有名だ。彼は、民主党政権では成功しなかったが、政治姿勢には一本筋が通っている。それは愚直ともいうべき性格だが、愚直一本やりでは政治は動かない。
 辞書を引くと、「愚直とは馬鹿正直」とある。これは私が持つ愚直のイメージとは少し違う。損得抜きで自説にこだわるのが私が抱く愚直のイメージである。私の云いたいのは、政治には愚直なほどの誠実さが大切で、それは、選挙民にとっての魅力にもなりうるということだ。