参院選は終わったが、事後検証が大事

 事後検証と言っても、選挙のことではない。イラク戦争への英国参戦が妥当であったかどうかのチルコット委員会の7年かけた260万語にわたる検証報告書である。同委員会は戦争の正当性を疑問視する世論に押されて、2009年7月ブラウン首相(当時)が設置した。北アイルランド事務次官などを務めたジョン・チルコット氏をトップに歴史学者や元外交官ら5人(昨年1人死亡)で構成される。01年夏〜09年7月末の英国のイラクへの関わりを調べ、政治的出来事や決定を検証し今後の教訓を示すのが目的とされる。ブレア首相(当時)ら政治家、軍関係者、情報機関幹部、外交官ら150人以上からの聴き取り、公聴会は原則公開、提出書類なども公開している。ブレア氏とブッシュ元大統領との往復書簡を含む15万件の政府文書も分析した。人件費など委員会ヘの支出は1000万ポンド(約14億円)に上る。結論はフセイン独裁政権大量破壊兵器の開発保有ありとする誤った情報を信じ、戦争は米英主導で始まり、10万人以上のイラク市民をふくむ犠牲者を強いた上,戦後の混乱は過激派組織「イスラム国」(IS)を生み、世界はテロの横行に手を焼く現状は見てのとうり。報告書では「米英関係」について「国益や判断が異なる部分で無条件の支持を必要とするものではない」とも指摘している。先刻辞任したキャメロン英首相は下院で「最もだいじな事は将来に向けた教訓を得ることだ」と述べた。
 振返って、我が国はどうか、当時の小泉純一郎首相は直ちに米国への支持を表明し、現地への自衛隊派遣に踏み切った。幸い犠牲者は出なかったものの、交戦とは紙一重の経験だった。その後、米英が厳しい検証を重ねるうち、我が国では民主党政権時代に4ページの資料を発表しただけ。過去の重大な政策の検証のお粗末さはあきれるばかりだが、最近、安倍政権が残した政策にも、事後検証の必要なものが幾つかある。例えば;安保諸法に関する法案の強行採決は行政府の明らかな憲法無視であり、これを是認すれば自衛隊の国連の集団的自衛権の行使に繋がる重大な問題だ。選挙の結果には目の色変えて分析するが、そんなことは、政党内部に任せておけばいい。マスコミも、看過すればその先にさらに許されない政府の振る舞いの裏表がある事をもっとしつこく追及すべきだ。
                     
                      「チルコット委員会の報告書」は7月7日の朝日新聞に詳細が掲載されている