サラリーマン受難の時代

 若い電通社員の自殺が勤務の過労によるとする行政の判定が出て司直の捜査を受け、電通にとどまらず、企業に社員の勤務実態の見直しが求められている。電通には、70年以前頃、当時の吉田社長が打ち出した「鬼十則」なる社是があって、今も仕事の基本となっている。その中身は、仕事に向かう行動規範としての伝統になっているが、その第五項「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂まではー。」第六項「周囲を引きずり回せ、引きずるのとひきずられるのとでは、永い間に天地のひらきができる」とある。これだけ見ると、イスラム過激派のことかと思いたくなる。70年前の勤務規範がそのままというのも些か疑問だが、この金科玉条が今も社内に浸透していて、おかしいという声は上がらないのか、今日は携帯電話で何処にいても捕まえられる、人員抑制で所定の勤務時間ではこなせない仕事を与えられる、結果、闇勤務に追い込まれていく、というのが痛ましい行動の引き金になっていったのだろう。弓に例えれば、引き絞った弦は何時かきれてしまう。70年前を振り返れば、仕事はきつくても勤務の合間に弓の弦を緩めることができた。都心の映画館の午後、まばらの椅子席で茶封筒を抱えて眠り込んでいるサラリーマン風情をよく見掛けたものだ。ITだかATだかしらないが、きちきちの勤務に多少の逃げ場を認めるのも労務管理の知恵ではないかと思うが如何?