一瞬

 今のNHK朝ドラを観ていますか?先日、主人公糸子の祝言のシ−ンで、宴席の大騒ぎの中、父親の善作がみせた、情けないような顔つきが、一瞬アップで映った。嬉しさの半面の父親の寂しさが顔の歪みになって、複雑な秀逸演技になった。それにつけて、思い出したのが、1979年に観た、井上ひさし作の芝居、「しみじみ日本 乃木大将」の終幕近く、大礼服を着たすまけい扮する乃木大将が、舞台中央で下手に向かって直立不動の姿だった。ただの立ち姿が、明治天皇への思慕の思いを表して、感動を覚えた。どちらも一瞬の演技だが、インパクトは大きい。映画やテレビはアップショットの技法があるが、芝居の舞台は広い空間で、観客を惹きつけるには、演出や役者の力量が必要となる。往年の小津安二郎の映画には、よくあるシーンだった。最終作「秋刀魚の味」ラストシーン、笠智衆の父親が、娘の結婚式から帰って、台所で座っている姿を廊下の奥から撮っている。これで一安心という気持ちと仄かな淋しさがよく伝わってきた。「一瞬の迫力」が観る者へ快い感動を呼び起こす。
 で、拙句旧作をひとつ。
      シャボン玉 無碍一瞬の宇宙なる