奇妙なフランス青年との出会い

 12月6日昼、神田淡路町の蕎麦や「まつや」で、向かい側に同席したのは、髭もじゃのフランス青年。冷の日本酒をちびりちびりやりながらもり蕎麦をたぐってる。私の連れが、「お蕎麦は好きですか」と声をかけたのがきっかけで、フランスから来日して6年になること、仕事は証券会社であることが判った。この近くには「神田の藪」と言うしにせがあると言うと、昨日行ったと言う。「このまつやが混むのは、”藪”より旨いという輩が結構いる」と告げると、「ふんふん」。私の連れが「日本では、大晦日に蕎麦を食べる習慣がある。人生細く長くと云う願いから」と言うと、「ふーん、来てみよう」、「其の日は長い行列を覚悟しなければー」と言い添えると、成る程という表情で、頷いた。
 ここまではよくあるパターンだが、彼が我々より一瞬早く席を立った直後、店の人から「お客様のお勘定は前の席の方から戴きました」と告げられ、唖然。私の連れがすぐ追いかけたが、見失った。「うーん、一期の不覚、この歳になって、フランスに借りが出来るとはー」と連れと顔を見あわせたが、なかなか、粋なフランスだわいと一本執られた淡い思いが残った。
 ここからは話が飛躍するが、最近は、ヨーロッパに学ぶことが多いような気がする。先日の、笹子トンネルの事故のあと、天声人語で、スイスとイタリアを結ぶアルプス越えのトンネルが、車間距離100メートルを保つことになっていると紹介していた。万一の事故が最小限になるような配慮と思うが、こういう発想はわが国には湧きにくい。200年にわたり何度も戦火を交えた独仏が先頭に立って、今日のEUの基礎を築き、欧州統合のリーダーシップを執っているのをみると、日中の争いには数世紀の遅れを感じる。戦後、アメリカに学び、アメリカに従い、効率第一で、色々な分野の成長を遂げた日本だが、ヨーロッパの長い歴史の、思想、文化に学ぶべきものが多々あることを、少しなおざりにしてきたような気がする。