今年の「高校野球優勝校」が齎したもの

 23日の新聞には、高校野球優勝校と同じ面にイチローの4000本安打達成も報じられていた。どちらも日本の野球にとって、快挙である。特に、前橋育英の優勝には、過去の優勝とは一味違った背景がある。
 今年は、10校の初出場校が健闘して、其の中の前橋育英が初出場で優勝を獲得したのだが、そのうらには、並々ならない作戦と努力の数々があったようだ。近来、常連の出場有力校には、全国から所謂「野球留学生」を募り、プロ並の訓練を施す学校が多いが、それらの技術を吸収しながら、それに打ち勝つ工夫をして結果を生み出す術を編み出した。地元出身者の選手が、野球留学生のチームと切磋琢磨して、レベルを上げることはいいことだが、その成果には、監督の先生の熱意と優れた指導が欠かせない。
 優勝校の荒井監督は「打撃は相手投手に左右されるが守備はこちらの意図で結果がだせる」と[攻撃的守備」の、バント処理、併殺、野手の本塁返球などの技術を叩き込んだ。優勝目指して競り合った日大山形や、地方大会で、八戸光星青森山田などの強豪に勝って甲子園にきた弘前聖愛の監督も、地元出身の選手育成を掲げている。前橋育英の選手は、毎朝15〜30分の散歩をする。日常のことだそうだが、会話は禁止、各自が袋を持ち、ゴミを拾う。荒井監督は「細かいことに気ずく習慣から、対戦相手の動きを見逃さない洞察力を養う」と言っている。監督の次男が主将、奥さんが寮母を勤める、選手は家族のような一体感に包まれている。
 創部浅い弘前聖愛は、寮がないので、自宅の遠い者は野球部にはいれない。そこで、原田監督は自費で古いアパートを買い、自宅の遠い選手に利用させている。
 これらの行動は、技術向上一本やりの学校に見られない、人間教育になっていると言えるのではないか。それは、高校野球が齎す、大切な教育効果になっている。
 一つ、提案がある。野球を通して、選手に絆を生み、選手の人間教育に寄与した指導者の顕彰を考えてはどうだろうか。