全国JRにある格差現象

 JR九州が客車7両機関車1両の1編成に新幹線並の30億円かけた豪華列車を作り、3泊4日最高額55万円の九州1周ツアーを募集したら、7倍の申し込みがあったとか。首都圏のデパート分析データに国内だけで100万円単位の買い物を気軽にする層が100万人以上いると言うのが成功確信の根拠とある。
 JR東海では5.4兆円の自前資金でリニア新幹線を計画し、東京ー名古屋間を40分で結ぶ。消費電力はピーク時東海道新幹線の3倍以上の3.5万キロワットを消費するエコに逆行の路線だ。
 一方、JR北海道は、2007年10月脱線、運行トラブル、2011年5月石勝線脱線炎上と事故が続出し、2011年9月には社長の野島誠氏(56歳)が責任を感じて自殺すると言う痛ましい事件まで起こった。この間、2008年には新幹線の札幌〜長万部間先行着工が政府と与党の合意をみたと言う明るいニュースもあったが、続出の事故の不評をかき消すことはできなかった。これらの事故の背景には、1987年の分割民営化によるJR北海道の構造的経営基盤の脆さが指摘される。2012年度の営業赤字は309億円、安全面への設備投資ができないと言うことは、寒さ厳しく人口過疎の広いエリアの鉄道事業にとって致命的な状況であった。人員の手当ても充分できず、現場の作業環境もよくなかった。政府が分割民営化時、赤字補填に渡した「経営安定基金」の運用益で凌ぐはずだったが、その後の不況などで合理化の結果、しわ寄せが人員抑制をせざるを得ないことになり、中堅の技術者が極端に不足していたことも事故発生の遠因となったと考えられる。同様に赤字体質のJR九州が新幹線の延長をてこに、聊か復調の気配に見えるのは冒頭に述べた通りだ。
 JR東日本は、安全管理体制建て直しのため、JR北海道に社員派遣をきめたが、社員の交流だけでなく、社業全般の格差是正にもっと配慮をすべきだ。
 アメリカニュージャージーに示唆に富む事例があることを、現地在住の冷泉彰彦氏(作家、ジャーナリスト)が書いているので、抜粋して紹介したい。

   アメリカ東北部のニュージャージーからペンシルベニアという地域は、19世紀から20世紀にかけて、世界で最も先進的な鉄道システムが栄華を極めた場所(略)ペンシルベニア鉄道(PRR)といって最盛期には総延長1万6千㌔、従業員25万人(略)米経済史に燦然と輝く超優良企業でしたが、そのPRRという会社はいまは影も形もありません。全国高速道路網と航空航路に押され1968年に時代の彼方に消えていったのです。(略)鉄道インフラというのは継続性が重要(略)鉄道は施設と車両で成り立っていると思いがちですが、同時に運行体制というソフトと運行に当たる人材に恵まれなくてはダメなのです。(略)JR北海道が負けるということは北海道が負けることであり、一度この大きな地方が衰退したら、復活するのは本当に大変なのです。(略)国鉄分割民営化の際に、北海道内の鉄道だけを独立会社として位置付けたスキームそのものに問題があるのは明らか。例えば2010年度で比較すれば、JR最大のJR東日本が連結売り上げ2兆6千億円近くあるのに、JR北海道は1628億円と10%にも満たない。もっと言えば、JR東海東海道新幹線1本で1兆円近い売り上げがある一方で、広大な北海道に分散したインフラを保守し、過酷な自然の中で365日列車を運行し、人材を活かし続けているJR北海道の経営基盤はなんとも脆弱です。(略)北海道の再生には、鉄道インフラの維持と高速鉄道が必要だと真剣に思います。中島氏の悲劇をムダにしてはなりません。

 豪華観光列車で稼ぐもいい、リニア新幹線の建設も結構。だが格段の悪条件の中で否応なしに苦闘する仲間の支援にももっと真剣に取り組むべきだと思う。
 景気が持ち直すと、社会の色んな分野で格差が広がることだろう。そこで、公益の再配分を図るのは、正に政治に課せられた重要課題と考える。