ITの齎すこと

車の自動運転の事故対策のテレビ番組を観た。咄嗟の対応はまだまだ人間には及ばない。ホテルの受付をロボットがする。介護施設でロボットが作業する。ロボットの動作はかなり複雑な動作をこなすが、サービス本来の温かみは伝わらない。忙しい昨今、世の中の動きもあてがいぶちの情報を鵜のみにしがち。私は、毎日新聞を一覧して見出し、記事の内容分量から情報の軽重を判断する。その作業は、アナログな方法だが思考の訓練にもなる。身辺を見回すと、科学技術の進歩による「人間のロボット化」が進んで、頭脳は益々退歩しているのに御用心あれ!

日本人の精神文化の退歩をもたらすもの

 将棋のタイトル戦「竜王戦」挑戦者の九段棋士が対局中の不自然な離席でスマートフォンの将棋ソフトをを使った疑いから出場停止処分になった。最高の実力を持つプロ棋士の意外の行動に驚いたが、その行動に示唆するものがあることに気付かされた。
 年初届く宛名から本文まで全て印刷の年賀状は企業の広告宣伝を目的とするものは別として、個人が遣り取りする賀状では虚礼としか受け取れない気がする。斯く言う小生も、若干の後ろめたさから、印刷の文面に添え書きを書き加え投函している。本来の賀状は元旦に書き投函すべきもの。それが印刷の軽便化で年末の投函になり、本来の趣旨からすれば形骸化してきた。パソコンの利便さから字を書く習慣が薄れ、手書きの能力の衰えに驚く。パソコンで打つ漢字は同音異語をこなせず意外な誤字を齎すことがある。技術の進歩から、反面、精神文化の退歩となっている事例は随所にある。周囲を見渡し、精神文化の退化に気付いたものの反省としたい。

長生きは目出度いのか

 人間の寿命は伸びる一方、日本国内の百歳以上の老人は65692人で、過去46年連続で記録更新をしたと厚労省が公表した。政府は長寿表彰に銀杯を贈ってきたが、財政難で、今回から、純銀を銀メッキに変更したそうだ。女が87.6%、ここでも女性上位である。純銀をメッキにしてどのくらい予算倹約になるのか知らないが、ちょっと興ざめな気もする。政府の社会保障・人口問題研究所の推計では65歳以上の人口が総人口の3割を超えるのは8年後の2024年と予測されている。そのうち、高齢者が増えて、落語的に言えば、「年寄りが佃煮にできるほどになる」。高齢化は犬猫にも及んで、1990年比2014年で、犬平均寿命8.6歳が13.2歳、猫5.1歳が11.9歳になっているそうだ。犬に感想を聴いたら「ワン(何)とも思わない」と答えた。
 斯く言う小生も今年86歳、終活の段取りは遅々として進まず、取りあえずは息災で、爺、婆2人、周りに世話もかけず暮らしているが、さしたる充実感はない。
「明日ありと思う心の仇桜 夜半に嵐の吹かぬものかは」は親鸞の和歌だが、「明日の命はわからないが今を精一杯大事に生きて行きたい」と言うのが真意だそうだ。

終戦の日の体験

 総務省の人口推計では終戦時14歳だった85歳以上の生存者は511万人、人口の4%。小生もその1人。当時、学徒動員で中山道戸田橋にあった、大豆からカゼインを製造する工場にいた。ジェラルミンの代わりにベニヤ板を飛行機に貼る材料にすると聞かされていた。頻繁な敵艦載機の来襲に逃げ惑う日常だった。8月15日正午の天皇の肉声の終戦詔勅は此処できいた。初めて聴く天皇の肉声は浮世離れした抑揚だったが、敗戦の現実は疑う余地なく理解した。広島、長崎の原爆は「新型爆弾」と新聞に載った直後に、被害の惨状はすぐ東京にも伝わってきた。玉音放送の直後、級友の山下敬君が、「天皇陛下にお別れに行こう」と言う。「よし、行こう」と応じて歩き出した。戸田橋から宮城前まではかなりの距離だが、行き着くまでの記憶はない。恐らく都電を乗り継いで行ったのだろう。二重橋前の広場に着いたのは午後3時頃だったか。玉砂利の上には正坐して頭を下げている人々の光景はよく見る写真のままだ。遠くから、大声で何か叫んでいるのが聞こえてくる。暫くして、家に帰ることにして、山下君と別れ、空襲で焼け出されたあと仮住まいの東北沢の自宅に帰り着いたのは夕方になっていた。夕焼けから暮れようとしている家々からは明るい電灯が洩れているのに気付いて、戦争は終わったんだとホッとした。ついさっきまで、本土決戦でいずれは死ぬんだと思っていた息苦しさから解放されて、軍国少年のメッキは瞬時に剥がれたのだ。
 私は戦時下の教育の影響の恐ろしさを身をもって体験した。同世代でも、地方にいた連中と違って、東京で、焼夷弾爆撃の地獄絵を見、爆弾、機銃掃射に追いかけられたり、大げさに言えば、生死の境をくぐり抜けた15歳の経験は、戦争不可の信念を揺るぎないものにした。

安倍政権の独走を止めるには

 先の参議院選で、自民党単独過半数を確保した。安倍総理内閣改造と党役員の入れ替えをし、「一億総活躍」とか、「働き方改革」とか、思いつくままの大臣まで作って、政権の安定長期化を唱え、いよいよ悲願の憲法改正に向け牙を研いでいる。このやりたい放題の独走を止めるのにはどうしたらいいのか。衆議院の勢力は圧倒多数で、其の上、自民党は人材豊富(?)、其の上、かってのように政策に異を唱える一言居士もなく、政権への翼賛状態は目に余る。
 そこで提案する。参議院の改革によって内閣の独走を止めるというのはどうか。本来、参議院の在り方は、「良識の府」と言われるように、衆議院多数派による内閣の暴走を防ぎ、参議院独自の視点で広く国民の意見を国政に反映させる存在であった。選出される候補者も、プロの政治家よりも学識経験豊かな文化人、学者などや女性活動家などの政治参加が期待された。発足当初の「参議院緑風会」はそのような議員の集まりだった。
参議院改革への提案}
 ○政党所属の参議院議員には、党議で決まった政策についての「党議拘束」を禁止し議員個々の自由な意見を認める。
 ○参議院の討議が広く多角的な民意の反映を実現するために選挙で選出する議員と別枠で、民間から、財政、エネルギー政策、医療、外交など、専門分野の提案ができる候補者を選出する。
こうした参議院の制度改革ができれば参議院の活力回復と内閣の独走抑止が実現できるのではないか。しかしいままで「参議院改革協議会」は何度も設置されたが抜本改革は実現しなかった。では改革可能な「強力な第三者機関」というのはどうしたら実現できるのか。
これから先の知恵は思い浮かばない。どなたか知恵を絞ってほしい。マスコミも広く与論を喚起してほしい。

参院選は終わったが、事後検証が大事

 事後検証と言っても、選挙のことではない。イラク戦争への英国参戦が妥当であったかどうかのチルコット委員会の7年かけた260万語にわたる検証報告書である。同委員会は戦争の正当性を疑問視する世論に押されて、2009年7月ブラウン首相(当時)が設置した。北アイルランド事務次官などを務めたジョン・チルコット氏をトップに歴史学者や元外交官ら5人(昨年1人死亡)で構成される。01年夏〜09年7月末の英国のイラクへの関わりを調べ、政治的出来事や決定を検証し今後の教訓を示すのが目的とされる。ブレア首相(当時)ら政治家、軍関係者、情報機関幹部、外交官ら150人以上からの聴き取り、公聴会は原則公開、提出書類なども公開している。ブレア氏とブッシュ元大統領との往復書簡を含む15万件の政府文書も分析した。人件費など委員会ヘの支出は1000万ポンド(約14億円)に上る。結論はフセイン独裁政権大量破壊兵器の開発保有ありとする誤った情報を信じ、戦争は米英主導で始まり、10万人以上のイラク市民をふくむ犠牲者を強いた上,戦後の混乱は過激派組織「イスラム国」(IS)を生み、世界はテロの横行に手を焼く現状は見てのとうり。報告書では「米英関係」について「国益や判断が異なる部分で無条件の支持を必要とするものではない」とも指摘している。先刻辞任したキャメロン英首相は下院で「最もだいじな事は将来に向けた教訓を得ることだ」と述べた。
 振返って、我が国はどうか、当時の小泉純一郎首相は直ちに米国への支持を表明し、現地への自衛隊派遣に踏み切った。幸い犠牲者は出なかったものの、交戦とは紙一重の経験だった。その後、米英が厳しい検証を重ねるうち、我が国では民主党政権時代に4ページの資料を発表しただけ。過去の重大な政策の検証のお粗末さはあきれるばかりだが、最近、安倍政権が残した政策にも、事後検証の必要なものが幾つかある。例えば;安保諸法に関する法案の強行採決は行政府の明らかな憲法無視であり、これを是認すれば自衛隊の国連の集団的自衛権の行使に繋がる重大な問題だ。選挙の結果には目の色変えて分析するが、そんなことは、政党内部に任せておけばいい。マスコミも、看過すればその先にさらに許されない政府の振る舞いの裏表がある事をもっとしつこく追及すべきだ。
                     
                      「チルコット委員会の報告書」は7月7日の朝日新聞に詳細が掲載されている

金まみれオリンピックの陰で

 僧侶、鉄道員。五輪出場者に変わり種の選手がいる。カヤックシングルのの矢沢一輝(27)は善光寺の僧侶で日の出とともに起き午後3時まで5回の祈祷にあたる。。それから艇庫のある犀川へ。練習は1時間半。五輪後の生活に備えて、長野県カヌー協会会長の善光寺近くの寺の住職の勧めで仏門に入った。
 セーリング470級の今村公彦(32)はJR九州の社員、在来線の運転歴約1年、24時間勤務明けで海にでるのはきつく、五輪強化選手になった機会に退社を覚悟で、思い切って競技に専念したいと会社に申し出た。結果は、JRに籍をおきながらコンサルティング会社の資金的支援を受けて、望みは叶えられた。
 笹川スポーツ財団の調査では、遠征費など選手の年間負担は206〜250万円、仕事優先や金銭的問題から引退するケースも多いという。1964年の東京五輪を契機に選手を育てて広告効果を狙う企業が増えたが、90年代のバブル崩壊後企業スポーツは縮小し、現在は大会に協賛金を支出しスポーツ振興と広告効果を図る企業が主流だそうだ。選手個人の努力で問題解決を図る上記のような例や、ネット上の寄付で活動費を賄うケースもでてきているという。いずれにしろ、スポーツへの情熱の賜物だ。(以上は5月17日朝日新聞紙上から)
 一方で、オリンピックは回を重ねる毎に商業化し、今や金まみれの感。五輪招致にコンサルタント会社のロビイストの介在は常識のようだ。2020年東京五輪招致で、五輪招致委員会が2.3億円のコンサルタント会社への支払いが明るみにでた。その金は、五輪開催の票をまとめる筋に流れたとする疑いが報じられているが、相手方の実態はすでに消えている由で、追跡は難しいようだ。
 億の金が煙と消えても問題にならない一方で、上記のようなアスリートの実態があるのはどうも合点のいかないことだ。