ふるさと納税の思わぬ展開

 2008年度に地方税の増を狙ってスタートした「ふるさと納税」制度には納税者が敏感に反応して、急速に拡大し、地方の特産品のおまけの販促なども加わり拍車がかかった。ここまでは名案と感服していたが、高所得層が目をつけ、節税効率のよさから高額の利用を生み、受け入れ側も見返りに金券などを発行し、ネット販売業なども便乗して参入し、新しいビズネス現象になった例まで現れた。地方への寄付行為は思わぬ方向に逸脱して、慌ててブレーキを踏んだ行政機関の歯止めも後の祭り、2015年度には1300億円〜1400億円の税収額に達する由だ。金持ちの財欲は限りなく、鵜の目鷹の目で儲けを企む。
 返礼品競争で、折角増えた地方財源も目減りして、福祉や子育ての拡充を圧迫する。寄付行為は本来見返りを求めないもの。災害に寄せられる支援などは見返りを求めない純粋な行為だ。おまけ競争で釣るふるさと納税地方自治体にとっては麻薬作用を齎した。この有様は、「タックスヘブン」に逃げ込む超高額所得層と変わらない社会現象と言える。

熊本の大地震の示唆すること

 14日に起こった熊本の大地震震度7の揺れに2度みまわれ、2週間経った時点で震度1以上の余震が千回を超えなお収まらない。2度目の震度7の揺れで崩壊した家屋の下敷きになった犠牲者が出た影響で、自動車の社内やテントで寝る人が増え、エコノミー症候群に罹る人や収まらない余震に神経障害の症状も増えている。築城の名手加藤清正が築いた「武者返し」の石垣も2度の震度7には崩れて全国に大きなショックを齎した。
 今回の震源は熊本周辺を西南から東北に走る活断層上で起こり、余震の震源もそれを明確に示している。49人の犠牲者は痛ましいが、津波の発生が齎した5年前の東北大地震の被害に比べると人的被害は少ないと言える。ただ、依然として収まらない余震を発表する気象庁の青木津波地震課長にはお気の毒な印象を受ける。
 1596年畿内をおそった「慶長の大地震」の4日前大分県でМ7程度の地震があった記録があるそうだが、以後九州では大きな地震がなかったらしい。それだけに、今回の地震を齎した活断層の歪のエネルギーはかなり溜っていたのではなかろうか。400年の歳月は人間にとっては長いようだが、自然の営みではほんの一瞬の時の経過なのだ。「九州には大地震がこない」と言った安心感がなんとなくあって、大災害への備えの気構えが足りなかった嫌いは無かったろうか。災害に逢わない地域の防災意識は関心を持たない輩が半数と言う。政府や自治体の対応も色々検討の必要がある。関西淡路地震、東北大地震の経験も活かして、災害対策の大系を作る必要がある。政府には、ろくな実績のない行政機関がある。そんなものは整理して、災害対策の「省」なり「庁」なり設けて、強力な行政機関とするべきだ。

「パナマ文書の漏洩」と「バスケス」ウルグアイ大統領

 パナマの法律事務所モサック・フォンセカから1150万件もの機密文書が匿名で「南ドイツ新聞」に漏らされ、今年4月全世界に知れ渡ってしまった。世界の大政治家の周辺人、富裕層が税金逃れに「タックスヘブン」と言われる国に預金を移している実態が国民にあからさまになり、失脚に追い込まれた政治家も出始めた。この行為は違法ではないが、明らかに「脱法行為」と言わざるをえない。清廉であるべき政治家としての行為は本人のみならず周辺も厳しく問われなければならない。
 一方で、南米のブラジルとアルゼンチンに挟まれた小国、ウルグアイ東方共和国の「バスケス大統領」の存在を紹介したい。面積17.6万平方キロ(日本の約半分)、人口342万人の立憲共和制の小国である。彼は1935年生まれの貧困層出身で、都市ゲリラに参加して、13年間収監生活を送り、2009年大統領に選出された。その生活は大統領の月収97万円の大半を貧困層対策に提供し、月10万円で、首都モンテビデオ郊外の農場暮らし、資産は1987年製フォルクスワーゲン1台のみ。南米の右、左諸国の緩衝として穏健な存在を維持している。同国の大統領は任期5年で連続再選禁止だから、来年は任期満了で退任する。
 大国に君臨して栄華をほこり、財をなしてその始末に汲々とする富裕層数多の一方で、ウルグアイバスケス氏の存在に爽やかな拍手を惜しまない。

今日の大岡裁きに喝采をおくる

認知症の老人が徘徊中に列車にはねられて死亡し、JR東海から損害賠償を求められての訴訟で、最高裁から「遺族に賠償責任はない」との判決があった。2007年に起きた事故に関わる訴訟で、長い間遺族の神経はいかほどすり減ったことかと察するに余りあるが、最高裁の判決は、法律の杓子定規を超えての判断として、異議を抱くむきはあるまい。日本の高齢者は2015年65歳以上3384万人、総人口比26.7%、日本総人口の少子高齢化はスピードで世界一、認知症者は2012年460万人、2020年には700万人との予測もあるそうだ。
今回のような賠償問題の解決策のみならず、介護のありよう、医療の対応など、緊急を要する施策が目白押しだ。家庭での介護には地域をあげての支援、国の政策としての最優先課題とするくらいのアクションを切に熱望する。

「情報保全隊」ってご存知?

新聞を読んでいて、「情報保全隊」って活字が目にとまった。自衛隊イラク派遣に反対する人の個人情報を自衛隊情報保全隊が集めたことに対する違法性が争われた控訴審判決の記事だった。
情報保全隊と言う組織は陸、海、空、それぞれにあった組織を統合して、2009年9月防衛大臣直轄の組織となった。きっかけは、この直前に起こったロシア情報機関による海上自衛隊資料流出事件であった。
情報保全の英訳はIntelligenc Security(防諜)。戦力保持には秘密を守るための態勢が必要なことは分かるが、今回の裁判で個人情報の収集範囲の違法性が争われたことから、情報収集には歯止めが必要であることが浮かび上がってきたことは幸いと考える。
 戦前、この種の組織は、本来の目的を逸脱して、個人の行動を厳しく制約した歴史がある。言われなき弾圧を観,聴きした生き残り世代としては気にかかることなのだ。

甘利明氏の辞任が示す政治の旧態依然

 安倍内閣の政策に最も必要な戦力の甘利明氏が辞任に追い込まれた。安倍総理には思いもかけない打撃が最悪の時期に起こった。
 甘利氏は神奈川県出身の2世議員、先祖は戦国大名武田の重臣と言われ、地元との関係は長く深い。日常、色々と要望がもちこまれ、その対応に追われるのが秘書の役割と言われる。地元民の生活に関わる要望に応えて行政機関等に働きかけるほか、特定商工業者などから持ち込まれる問題には私的利害に繋がる金銭の提供がからむ危険が起こりがちだ。それに関わる秘書の処理管理を怠れば、贈収賄の発生、管理する議員の責任が問われ、失脚の難を招く。
 1985〜6年リクルート事件のあと、政治献金の抑制を狙い「政党交付金の制度」ができたが、政治家自身が抜け道を残すような有様で、厳格な政治献金抑止効果は実現しなかったばかりか、最近は、企業の政治献金復活が表沙汰になっている。国民の税金から支出される政党交付金原資は年間1人250円、2007年319億円。甘利氏は、1998年小渕内閣の労働相当時「人材派遣協会加盟の12社」から献金をうけている。
 政治家は、公益、私益を峻別し、政治活動に携わる関係者の隅々までその意識の徹底をはからねばならない。選挙区の維持のため、地元の要望を取り上げ、そのために行政機関等に橋渡しをするのが秘書の日常活動となる。有力な2世議員ほど地元との交際いも多い。選挙区の正当な要望に応えることは政治家本来の仕事だが、個人や企業の利益のための支援の見返りには金銭がうごく。世帯がおおきくなれば議員の周辺で活動する秘書も多くなり、その管理の弛みが不祥事の発生に繋がる。検察は手加減なしにその活動チェックを厳正にすべきだ。政治家側に責任が問われるのは当然のことだが、問題を持ち来む側の責任、政治活動への不正な認識も同様に問われてしかるべきである。

高齢者の自動車運転免許と事故防止に荒療治を。

 高齢者の車運転による事故が増えて、その対処が急浮上している。認知症による事故が指摘されるが、現状はもっと広い対策が必要と考える。車の利便は高齢者には離しがたい。それだけ執着も強い。しかし事故をおこせば本人のみか周囲に人命や多くの物損を齎す。運転をやめるよう説得しても、なかなか納得を得られない。大変な手間ひまかけて納得をさせている事例が報道されているがますます増えるであろう高齢者の運転とり上げはそんな手ぬるいやり方では追いつかなくなる。
 そこで提案だが、75歳で運転を止めるのを原則とし、免許は必要欠くべからざる場合のみ認める特例とする。免許には、健康状態を精密検査し、生活環境を考慮して、昼間の地域限定の走行のみ認める。事故をおこせば、即、免許取り上げとする。抵抗はあろうが、このくらいの思い切った手をうたなければ、事故も人命も防げないと思うが如何。
 行政のやることもある。自家用車に代わる移動手段を工夫し、種々の規制で現在はできない、人や荷物の搬送を実現すれば、高齢者のみならず、自家用車のない、子育て世代や、障害をもつ人々にも利便を及ぼすことができよう。